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『VRビジネスの衝撃 「仮想世界」が巨大マネーを生む』のイメージイラスト(実際の表紙ではありません)

VRが売ったのは映像じゃない。「そこにいる」という体験だ。

イラストはイメージです(実際の表紙とは異なります)

社会・経済・科学

VRビジネスの衝撃 「仮想世界」が巨大マネーを生む (NHK出版新書)

新 清士 ・ Kindle版

VRテクノロジービジネス新規事業
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ひとことで言うとゲームジャーナリスト出身の新清士さんが、2016年を「VR元年」と見て書いた入門書です。オキュラスの誕生、日本のコミュニケーションVR、ロケーションVR、そしてAR・MRへのロードマップまでを扱います。数字と予測は、すべて2016年春時点の見立てです。

INTROどんな本か

さてさて、2016年は「VR元年」と呼ばれました。覚えてますか。

あれから10年。この本は、その熱狂のど真ん中、2016年5月に出た一冊です。NHK出版新書の486。著者の新清士さんは1970年生まれのジャーナリストで、ゲーム会社を経て転身し、IGDA日本を創設した人。2014年から、VRとARを中心に取材してきました。

序章の宣言はシンプル。2016年はVR元年だ。ゴールドマン・サックスは、VR・AR機器の市場が2025年に最大1100億ドル(約12兆円)になると予測し、フェイスブックは2014年3月、売上ほぼゼロのオキュラスVRを約20億ドルで買った。グーグル、サムスン、マイクロソフトも一斉に動いていた時期です。

問いは、1990年前後にも一度あったブームと比べて、今回は本物か。著者の答えは本物で、理由は二つ。「そこにいる」という存在感と、ゲームエンジンによる低コスト化です。

俺がいちばん面白いと思うのは、VRの価値を画質に置かないところ。4Kや8Kのテレビは、画素を上げても四角い窓のまま。「その場にいる」感覚は、そこからは出てこない。

俺は2021年に、オンライン化は馬に車輪をつけることじゃない、と書いた。リアルをそのまま画面に移しても、置き換わらないものが残る。この本の言う「プレゼンス」は、まさにその置き換わらないものの話です。

もうひとつ。2020年にコロナ禍の商品販売について書いたとき、グッズが売れていたのは記念や貢献の気持ちがあったからだ、と書いた。本書が序章で並べる「所有から体験へ」の数字は、その話の裏付けになっていると俺は思う。

向いているのは、VR・AR・MRのビジネスの成り立ちを知りたい人、新技術への投資熱を当時の記録として読みたい人、体験を売るビジネスのヒントを探している人。

ただし数字と予測は、すべて2016年春時点の見立てで、その後の実際とは違います。そこは承知のうえで。

予測が当たったか外れたかより、熱狂の中で何を判断材料にしていたか。それを読む本です。

CHAPTERS章ごとの中身

序章2016年がVR元年と呼ばれた理由

本書は2016年の刊行で、数字や予測はすべて同年春の取材と見立てです。序章の入口は、ゴールドマン・サックスの予測。VR・AR機器の市場が2025年に最大1100億ドル(約12兆円)になり、テレビやノートPCと同規模になる、と。著者はVRを、PC、スマホに続くIT革命の主役と見ています。

大手の動きが並ぶ。フェイスブックは2014年3月、創業1年半で売上ほぼゼロのオキュラスVRを約20億ドルで買収。グーグルは段ボール製の簡易HMD「カードボード」とYouTubeの360度動画で先行し、2016年1月に出荷500万超。サムスンのギアVR、14億ドル超を集めたマジック・リープ、マイクロソフトのホロレンズも出てきます。

映画や報道も動いていた。ルーカスフィルムのILMxLab、ディズニーによるJauntへの6500万ドルの出資。NYタイムズは購読者にカードボードを130万個配り、NHKもVRニュースを始めた。1回目のブームは1990年前後(ジャロン・ラニアーのVPLリサーチなど)で、今回が本物かどうかが、本書の問いです。

訳語の指摘も面白い。virtualの本義は「実質的に同等」で、「仮想現実」はIBMの仮想記憶に由来する、誤解を招く訳だ、と。欧米は現実と同等の空間づくりを、日本はキャラクターが生きる世界を志向する、という違いが第三章につながる。言葉ひとつで、作るものの向きが変わるわけです。

序章存在感と低コスト化、所有から体験へ

VRの強みは、視界を覆う広い視野と、ヘッドトラッキングによる没入(イマーシブ)。4Kや8Kのテレビは四角い窓のままで、画素を上げても「その場にいる」感覚は得られない。ここが出発点です。

著者が成功を確信した理由は2つ。1つ目は存在感で、2014年4月、HMDで初音ミクと握手するデモで、相手の視線が自分を追う体験をしたことが転機になった。2つ目は低コスト化で、第一次ブームから20年、ハードの性能が上がり、ゲームエンジンでCGの制作費が下がった。

「体験へのシフト」の根拠には、音楽産業の数字が出てきます。音楽ソフトの生産額は2006年の約4084億円から2014年の約2542億円に縮み、ライブの売上は約925億円から約2749億円に伸びて逆転した。握手券付きCD、テーマパークの好調、ディズニーのスター・ウォーズ・パーク計画。「体験を売る」流れの上に、VRを置いている。

俺が2020年に、グッズが売れていたのは会場に行った記念や、アーティストへの貢献の気持ちがあったからだ、と書いたのも同じ線の上の話。モノの値段は、モノだけでは決まっていない。

ロードマップも示されます。HMDは10〜20年の過渡期の道具で、VRからAR(カーナビのように現実に情報を重ねる)、MR(実写とCGが区別できない融合)へ進む。巨額投資の本当の狙いはそこにある、という見立てです。

第一章ゲームエンジンで制作費が下がった

第一章は、スター・ウォーズから始まる。『フォースの覚醒』に合わせた360度映像やタトゥイーンのVRデモは、視点を変えて同じ場面を何度も楽しめる。ディズニーは2012年にルーカスフィルムを買収し、SW関連グッズは2015年の約30億ドルから2016年に約50億ドル見込み。映画からグッズやパークへの移行が、家庭でパーク並みの体験を届けるVRへの期待を生んでいる、という流れです。

普及の原動力として挙がるのが、ゲームエンジン。ブログツールのように、下準備なしで3DCGを作れる基盤で、Unityは世界450万登録。アンリアルは2015年3月に無料化(売上が一定を超えると5%)、アマゾンのランバーヤードも無料でクラウド利用料で回収する。アセットストアで3Dモデルを買えば、制作費を大幅に抑えられる。

懐疑論の根拠も正直に書いてある。快適なVRには20万円弱の高性能PCが必要で、性能不足はVR酔いを招く。2006年頃に大流行したセカンドライフは、高性能PCとサーバの制約(1区画100人程度)で満足度が低く、沈静化した。今回もニッチなゲーマー向けに終わる、という批判に対して、著者はその見方なら本書も「過剰広告」になると認めたうえで、反論に入ります。

反論の柱は、HMDは「場」だということ。アプリを載せる土台で、ソフトが増えるほどハードが売れる循環が起き、ゲームエンジンで新規参入も容易になる。高価なHMD+PCに対しては、スマホを差し込む「モバイルVR」が対抗軸になる。

道具の値段が下がると、作り手の数が増える。作り手が増えると、場が育つ。順番として、すごく筋が通っていると思う。

第二章オキュラスは10代の自作機から生まれた

第二章の主役は、パルマー・ラッキー。2014年4月、21歳の彼を著者が取材しています。ジャーナリズム専攻のハッカー少年で、改造や修理で稼いだ金でHMDを50台以上集めたが、どれも視野角が30〜40度程度と狭く、失望した。17歳で掲示板に自作を宣言し、2010年に視野角90度の試作1号を作り、課題も公開して仲間の助言で改良していった。

そこへ、ドゥームやクエークで知られるジョン・カーマックが接触する。技術的な突破口は、安いレンズで視野を広げると像が歪むので、レンズの屈折を逆算して歪ませた画像を描く方式にしたこと。ソフトでハードの限界を補う発想で、今のHMDの標準手法になっています。

2012年のE3でテープ止めの試作機が反響を呼び、同年8月のキックスターターは目標25万ドルを1日で達成して、最終約243万ドル。そして2014年3月のフェイスブックの買収。ザッカーバーグは、ゲーム以外(教育、会議、スポーツ)を見据えて、10年ごとに来る次の大きな計算基盤と位置づけた。

ハイエンドの対抗馬も整理されます。HTCバイブは登録1.25億人のSteamという配信網が武器で、部屋を歩き回れて酔いにくいが、4×3mの空間が要る。PS VRはPS4(3500万台超)の周辺機器として399ドル(国内4万4980円)。心理的節目の価格、単体で赤字にしない、段階的に値下げ、という価格の考え方も紹介される。

完璧を待たずに試作を公開し、外の知恵を集める。ツールが生まれる瞬間の話は、やっぱりワクワクする。笑

第三章日本はキャラと向き合うVRへ

第三章は日本の話。パルマーは『ソードアート・オンライン』をVRのゴールと語り、日本のSFアニメが目標像に影響しているという。著者の原体験は、GOROmanこと近藤義仁氏の「ミクミク握手」。銃型コントローラーの反動機構で握手の振動を再現し、視線追従、まばたき、ネクタイの揺れで実在感を演出する。VRの価値は「プレゼンス」だ、という吉田修平氏の言葉も引かれます。

オキュラスが打ち出したのは「ソーシャルVR」で、別室の2人が無表情のアバターでも、身ぶりで感情が伝わる。これに対して著者は、日本の方向を、キャラとの関係を楽しむ「コミュニケーションVR」と名づける。例はバンダイナムコの『サマーレッスン』。親しい人にしか許さない45cm圏内に相手が入ってくる演出と、こちらが近づくと身を引く動きで、作り物と分かっていても人として錯覚させる。

産業応用は具体的です。戦艦大和のVR復元は、2014年12月のクラウドファンディングで目標100万円を1日半で突破し、記念艦三笠の体験会には年配者が並んだ。三菱地所ホームは2015年10月から、全18展示場にギアVRを導入(業界初)。結婚式場の下見や、従来カメラが撮らなかった親族の涙まで残す360度動画も出てくる。

日本の先陣はスマホゲーム会社で、リフト発売時にソフトを出せた日本企業はコロプラのみ。米国とは1〜2年差という評価で、近藤氏は2020年の東京五輪を節目と予測している。

未完成の物件、遠方の会場。「売る前に見せる」場面で、まず費用対効果が出る。この見立ては、今読んでもそのまま使える。

第四章ロケーションVRは過渡期の商売

第四章は普及の壁から。価格(HMDが600〜800ドル、PCが1500ドル程度)と、2D映像では魅力が伝わらず、体験させるしかないこと。2015年東京ゲームショウのPS VRは整理券が開場5分で尽き、来場26万人中の体験は約2000人だった。

そこで最初に稼げるのが、場所を限るロケーションVR。米ユタ州のThe VOIDは30分29〜39ドル、メルボルンのゼロレーテンシーは、倉庫でPCを背負ってゾンビと戦う45分88豪ドルで、予約が1か月先まで埋まる。大型筐体が1台1000万円超なのに対して、HMDは30万円以下で投資が軽い。日本でも、USJのXRライド、バンダイナムコのVR ZONEが出てきます。

ただし著者は、過渡期の商売だと断る。家庭に普及すれば、かぶるだけで珍しい市場は消える。そのうえで、体験がデジタル化で過多になるほど、他者と時間を共有するソーシャル体験が希少になり、VRはそれを強める、という仮説を置く。俺は、この一節が本書でいちばん長持ちする指摘だと思う。

俺がLIMITSの連載で書いてきたのも、完成した作品より、その場で起きた判断のほうが記憶に残る、という話でした。共有した時間は、複製できない。

投資熱の数字も出てきます。VentureBeat掲載のVRランドスケープ(2015年10月)で234社・企業価値約130億ドル。マジック・リープは、製品非公開のまま巨額を集めていた。

第四章後半MRへの統合と、日本の遅れ

結論はMR(複合現実)への統合です。ホロレンズの開発者版(2016年3月、3000ドル)は、実物大の車の3Dモデルを置いて色を変えるなど、設計用途が先行していた。エピックのスウィーニーは、画面とキーボードの様式が次の10年で変わると予言する。VRの本質はインターフェイス革命だ、という整理です。

ザッカーバーグは2016年4月のF8で、機器がメガネ型になり、テレビは1ドルのアプリになると語り、ミチオ・カクはコンタクトレンズ型を予測する。外の宇宙と同じく、仮想世界も無限のフロンティアで、IT大手の覇権争いが始まる、と結ばれる。

あとがきは、2015年9月のOculus Connect 2で、日米の熱量差に衝撃を受けた話から。日本の遅れの原因は、PCゲーム市場の小ささ、大手のリスク回避、VCの不在とみる。そこでgumiの國光宏尚氏と2015年12月に、日本初のVR専門インキュベーター、Tokyo VR Startupsを設立し、2016年1月に投資先5社を発表した。著者の会社よむネコも投資先で、著者は当事者です。

当事者が書いた熱い本、という前提で読むのがフェアだと思う。熱量も判断材料のひとつで、差し引くところは差し引けばいい。

LESSONS明日から使える教訓

  1. モノより体験に、値段をつけ直せモノが売れにくくなっても、ライブ、パーク、握手券のような体験には値段がつく。自社の商品を「体験」として設計し直せないか考える。複製できない価値は、その時その場で誰かと共有することです。
  2. 汎用基盤に乗って、速度を買うゲームエンジンとアセットストアがそろうと、参入障壁が一気に下がる。自前で作るより、既製の基盤に乗る判断が速度を生む。ものづくり的にいうと、基盤を作る側か乗る側かを最初に決めろ、ってことです。
  3. 熱狂と普及の壁を、数字で分ける端末価格、周辺機器、満足度という壁を数字で見て、熱狂と切り分ける。体験型サービスなら、1台1人・十数分という処理能力の上限を、料金と予約に組み込む。予測の数字は、いずれも2016年当時のものです。

CONCLUSION俺の結論

結論。新しい技術の話を聞いたら、「それは何を置き換えるのか」より先に、「何が置き換わらないのか」を考えろ。

画素を上げても、そこにはいられない。モノを配っても、記念にはならない。置き換わらないものにこそ、値段はつく。そこが見えたら、作るものの向きも決まる。

そのうえで、熱狂は数字で冷ます。端末はいくらか、何人が体験できるか、何年かかるか。2016年の本だからこそ、当たったことも外れたことも含めて、その判断の仕方がいちばんよく見えます。

NEWS関連ニュース

この本のテーマについて、最近話題になったニュースです。

PHILE WEB ・

Meta、「Ray-Ban Display」などスマートグラス3製品。AI機能やバッテリー性能強化

Metaが開発者会議Meta Connect 2025で、スマートグラス3製品を発表したと伝える記事です。片側のレンズに小さな表示部を持つ「Meta Ray-Ban Display」は799ドルで、手の動きを読み取るリストバンド「Meta Neural Band」で操作します。ほかにRay-Ban Meta(第2世代)が379ドル、スポーツ向けのOakley Meta Vanguardが499ドルで、発売はまず米国とされています。

この本とのつながり:本書が終点に置いた、HMDからメガネ型のMRへという見立てと重なる動きです。ザッカーバーグが機器はメガネ型になると語った、という本書の記述に対応します。

FOR YOUこんな人におすすめ

合わないかもしれない人:最新のVR市場の状況を知りたい人。内容は2016年春時点のものです。

FAQよくある質問

『VRビジネスの衝撃』はどんな本ですか?

ゲームジャーナリスト出身の新清士さんによる、VRビジネスの入門書です。NHK出版新書として2016年に刊行され、オキュラスの誕生、日本のコミュニケーションVR、ロケーションVR、MRまでを扱います。

なぜ2016年が「VR元年」とされたのですか?

フェイスブックによるオキュラス買収(2014年3月、約20億ドル)などの巨額投資に加え、オキュラス、ソニーのPS VR、HTC Viveの三大勢力がそろう年だったためです。ゴールドマン・サックスは2025年に最大1100億ドルの市場を予測していました。

VRとAR、MRの違いは何ですか?

本書では、VRは没入する仮想空間、ARは現実に情報を重ねるもの、MRは実写とCGの融合、という流れで整理されています。最終的にはVRとARがMRに統合される、という見立てです。

ロケーションVRとは何ですか?

場所を限って体験を売るVRのことです。The VOID(ユタ州)、ゼロレーテンシー(メルボルン)、日本ではUSJやバンダイナムコのVR ZONEが挙がります。家庭に普及すれば消える過渡期の商売とされています。

「コミュニケーションVR」とは?

欧米の、人と人をつなぐ「ソーシャルVR」に対して、日本はキャラクターと人として向き合う体験を志向する、という整理です。初音ミクのデモや、バンダイナムコの『サマーレッスン』が例に挙がります。

ゲームエンジンはなぜ重要なのですか?

Unity、アンリアル・エンジン4、アマゾン・ランバーヤードのような基盤とアセットストアで、3DCGの制作コストが大きく下がるからです。小資本のベンチャーでも戦えるようになることが、普及の原動力とされています。

VR酔いや普及の壁は、どう書かれていますか?

壁は価格(HMD600〜800ドルとPC1500ドル程度)と、体験させないと魅力が伝わらないことです。快適なVRには高性能PCが必要で、性能不足はVR酔いを招く、という懐疑論も紹介されています。

この本の予測は、その後どうなりましたか?

本書は2016年春時点の見立てで、市場予測、製品の価格や発売時期、企業の動きは、その後の実際とは異なります。当時の判断材料を知る資料として読むのが適しています。

この本の注意点はありますか?

著者は、あとがきで紹介される投資先(よむネコ)の当事者でもあります。数字や予測は、当サイトで検証したものではありません。

MONOGENIC伊丹谷のブログから

ご注意:2016年春時点の技術・市場の本で、市場予測、製品の価格や発売時期、企業の動きは、その後の実際とは異なります。著者は紹介されている投資先の当事者でもあります。一部の数字や時期は、確認できていません。

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本文は書き写さず、自分の言葉で紹介しています。内容に誤りがあれば、本でご確認ください。 当ページのリンクはAmazonアソシエイト(広告)です。詳しくは広告について。

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